主婦やシニアの方の活躍創出部門

エントリーNO.01

齢(よわい)、80歳で白衣の研究職に転身!
過疎地に光を灯す “夢の糖”

<ふるさと名品>

希少糖の木(ズイナ)

<商品の入手・問い合わせ先>

株式会社希少糖生産技術研究所
〒761-0615 香川県木田郡三木町大字小蓑1351-2 
三木町希少糖研究研修センター内
http://www.izumoring.com/index.html

〈会社概要〉株式会社希少糖生産技術研究所
[本社]
〒761-0615 香川県木田郡三木町大字小蓑1351-2
三木町希少糖研究研修センター内
<事業概要>希少糖の生産技術の開発研究、関連する微生物の分離技術の開発研究、希少糖の生産販売、バイオ関連技術の教育・研修事業、バイオサイエンス・ライフサイエンスに関する出版事業、前各号の事業に付帯する一切の事業

<その他記事内でご紹介している商品>

レアシュガースウィート

<商品の入手・問い合わせ先>

株式会社レアスウィート
[高松事務所]
〒760-0017 香川県高松市番町1-1-5
ニッセイ高松ビル7 階
http://www.raresweet.co.jp/raresweet/htm/contents.cgi?contents_id=2
マツタニ&レアスウィート オンラインショプ
http://raresugar.co.jp/

株式会社希少糖生産技術研究所代表取締役/香川大学農学部特命教授

何森 健(いずもり けん)さん(74)

岡山県玉野市出身。香川大学農学部にて糖の研究に従事し、世界で初めて希少糖「D-プシコース」の生産に成功。香川県の産学官連携による希少糖実用化プロジェクトの中枢を担う。また、県内の廃校に研究センターを開設して地域の高齢者を採用。子どもたちを含む教育・交流の場も創出し、希少糖を香川の文化にすべく多方面で活躍。

過疎地の廃校を利用した研究所で
お年寄りが白衣で培養に取り組む

香川県東部にある三木町の中心地から、くねくね曲がる山中の一本道を車で登ること約20分。人けが途絶えたと思ったら、緑の山あいにぽつぽつと民家が立つ集落が現れ、1つの大きな建物が見えてきた。さっぱりと掃除の行き届いた建物内の一室では、白衣のお年寄りたちが数名、ピンセットをもって何やら作業にいそしんでいる。

ここは、虹(こう)の滝などの豊かな自然を有する三木町小蓑(こみの)地区。バイオ研究に欠かせない水が豊富なこの地の廃校を利用して、株式会社希少糖生産技術研究所が開設されたのは2007年のこと。代表の何森(いずもり)健教授は、自然界にごくわずかしか存在しない糖である「希少糖」研究の第一人者で、過疎地区の廃校を再利用したいと考えていた三木町と、研究所の開設地を探していた何森教授のニーズが合致した形だ。

研究所ではバイオ技術を用いた希少糖の生産に関する研究開発を進めるとともに、2013年からは新たに「ズイナ」という植物の組織培養を行うズイナ事業も開始した。ズイナの植物体は新たな希少糖研究に欠かせない貴重な木だが、種から生育させることが難しい。そのため、苗の組織培養で育てているのだ。

白衣に身を包み、ピンセットとシャーレを手に組織培養を行っているのは、小蓑地区に住む60~80代の高齢者である。通称「小蓑ズイナーズ」と呼ばれる彼らは現在12名在籍しており、出勤は週に1〜2日、就業時間は1〜2時間。農業などの本業との兼業もOKで、本業の繁忙期に休んだり、体調変化などによる急な欠勤・遅刻・早退の希望にも柔軟に対応してもらえる。また、4名の主婦スタッフが作業工程や使用器具に工夫を凝らし、未経験の彼らがスムーズに培養を行えるようサポート。給料は感謝を込めて手渡しし、メンバーの誕生日にはみんなでお祝いするなど、高齢者が無理なく、かつ、やりがいをもって働ける環境がつくり出されている。

廃校利用を申し出た側の筒井敏行三木町長は言う。「廃校を再利用していただいたことで高齢者の職場ができ、家にいた方も外に出てコミュニケーションが生まれ、外部から人が集まる行事も行われるようになりました。廃校利用は成功例が少ないのですが、小蓑地区は大成功だったと思っています」

  • 何森教授が生産に成功した希少糖「D-プシコース」。カロリーはほぼゼロ、甘さは砂糖の約7割。抗肥満などの健康効果が期待される“夢の糖”だ

  • 三木町小蓑地区の廃校を利用した研究所。建物内には実験室などのほか、各種イベントに訪れた人のための宿泊施設も完備

  • 西日本を中心に生息するズイナ。20万種以上ある植物の中で唯一、D-プシコースを含んでいる。白く愛らしい花が咲き、観賞用としても人気がある

~奇跡の偶然~
「植物のシーラカンス」ズイナ

すべては1990年代初頭、香川大学農学部で糖を研究していた何森教授がたまたまキャンパス内で採取した微生物の中から、安価な果糖で希少糖「D-プシコース」をつくる酵素を発見したことから始まった。この発見によって何森教授は、世界で初めてD-プシコースの生産に成功するという偉業を成し遂げたのだ。

D-プシコースは、脂肪の蓄積や血糖値の上昇、動脈硬化を抑えるなど、美容・健康・アンチエイジングにうれしい効果が期待される“夢の糖”だ。それゆえ何森教授がD-プシコースの生産に成功したことは、希少糖研究の大きなターニングポイントとなった。

そしてD-プシコースとのかかわりから、何森教授はある運命的な植物に出合う。現在、三木町の研究所で小蓑ズイナーズが培養しているズイナである。

「あるときインターネットで希少糖を含むズイナという木の存在を偶然知り、すぐに研究・分析を実施したところ、20万種以上ある植物の中で唯一、D-プシコースを含んでいることが分かりました。1950年代にイギリスの研究者が報告していたのですが、その後、誰も研究されていないことを再発見することができたのです。基本的に、自然界に少ないということは進化の中で自然淘汰されてきたということ。なのにズイナは、自然淘汰されて存在が減ってきたはずの希少糖を今でも多く含む不思議な木。 植物のシーラカンスのようなものなのです」

偶然にも、ズイナの希少糖は自身が生産に成功したD-プシコースだったとなれば、何森教授が放っておくわけがない。調べれば調べるほど、なぜD-プシコースを含むのか、なぜ絶滅することなく存在し続けてきたのか、謎は深まるばかりで研究意欲をかきたてられる。

とはいえ研究しようにも、ズイナは簡単に手に入らないし育てるのも難しい。しかし幸運な偶然は続くもので、ほどなくして香川大学農学部の研究者がズイナを組織培養する方法を確立。何森教授は「自分たちでつくろう」と、研究材料として十分な量を確保すべくこの培養技術の活用を決断した。こうして、三木町・小蓑地区の廃校に開設した希少糖生産技術研究所でズイナを培養する計画を進め、2013年に同敷地内の幼稚園舎を利用してズイナ研究所を開設するに至ったのである。

  • 研究所では小蓑地区の高齢者たちがズイナの組織培養に取り組んでいる。初めての作業に戸惑っていた人たちも今ではすっかり慣れた手つき

  • ズイナの組織培養に携わる「小蓑ズイナーズ」は現在12名。日々の業務で交流を深めており、メンバーの誕生日にはみんなでお祝いするそう

  • 「廃校は過疎問題の上で大きな痛手ですが、研究の場として再利用していただき、小蓑地区に新たな賑わいが生まれました」と話す筒井三木町長

  • 小蓑ズイナーズの横井さん。希少糖やズイナにまつわる活動で子どもと接する機会が増えた。「子どもたちからエネルギーをもらっとります」

「あんなおばあちゃんになりたい」
ズイナーズに心ときめく子どもたち

「過疎地区である小蓑に研究所をつくることになったとき、そこに住む高齢者の方に何かできることはないだろうかと考えました。でも、未経験の彼らに研究作業は難しいのでは……との懸念もあった。ところが、やってみたらみなさんちゃんとできるんです。驚きましたが、もともと農業に携わっていた方が多いので植物に対する理解が深いんですね」

何森教授の言葉どおり、小蓑ズイナーズはすぐに仕事に慣れていった。 「だけど、白衣を着るなんてなんだか偉い人みたいで、最初は『えーっ』って感じでしたよ」。若々しい笑顔でそう語るのは、ズイナーズの1人、多田初江さん(83歳)。「この年になって働ける場所があるのはありがたいこと。だから、使ってくれるならと思って来るようになったんです」と言うが、今では重要な戦力の1人だ。

横山良秀さん(69歳)は「ここに来るといろんな人と話ができるという喜びがあります」と顔をほころばせながらも、「培養なんて考えたこともない仕事でしたが、ズイナがどう発展していくかを考えるとやりがいを感じます」と、熱意をのぞかせる。

ズイナーズが愛情を注いで育てたズイナの木は、研究・教材用として大学等に販売しているほか、小中学生が希少糖・生命について考える導入教材として活用されている。また、研究所を舞台に高校生が希少糖研究の成果を競う「希少糖甲子園」などのイベントも開催され、ズイナーズが子どもたちと接する機会も増えた。

ある女性メンバーが言う。「子どもにズイナを渡すと、ありがと、ありがと、って言ってくれてね。それがもう、すごくうれしいんです」。別の女性メンバーは大きくうなずいて言う。「お金じゃないのよね」

ズイナの配布で訪れた小学校のある女子児童が、後日、こんな感想を手紙にしたためてきたという。「ズイナーズのみなさんに会って人生設計が変わりました。私は老後も元気に活躍する、あんなおじいちゃん・おばあちゃんになりたいです」
元気をもらっているのは、ズイナーズの面々ばかりではないようだ。

  • 培養したズイナの成長を見るのがうれしいという多田さんは1人暮らし。「ここでみなさんに会うのが楽しみで、いつも少し早めに来るんです」

  • 松谷化学工業との共同開発で、天然由来の希少糖含有シロップ・レアシュガースウィートを商品化。アジア、アメリカなどへの海外販路も展開中

  • 小中学校にズイナを配る活動も実施。子どもたちがズイナを通して希少糖に親しみ、希少糖が香川の文化として根付くことが何森教授の願いだ

~奇跡の連携~
希少糖の多様な展開がつなぐ地域と世界

2013年、家庭で手軽に使えるシロップ「レアシュガースウィート」が一般発売された。三木町のふるさと納税の御礼品でもあるこのシロップに含まれているのは、何を隠そうD-プシコース。松谷化学工業株式会社の宇多津町工場にてアルカリ異性化法で製造し、同社の関連会社で三木町に本社を構える株式会社レアスウィートが販売を担う、香川県生まれの希少糖含有シロップだ。

何森教授が希少糖研究を始めたころ、糖はマイナーな研究テーマだったという。しかも学者の世界では実用化の目的が見えない研究は評価されにくく、どのように役立つかわからなかった何森教授の研究はなかなか日の目を見ることができずにいた。だが、D-プシコース生産の成功が希少糖実用化への足掛かりとなり、香川大学と国や県などの産学官連携による技術開発が本格スタート。産学官の“産”として手を挙げたのが、特定保健用食品の原料トップメーカー・松谷化学工業だ。同社の協力で誕生したレアシュガースウィートは瞬く間に大ヒットし、今では約300社が同シロップを使った調味料やドリンク、菓子など2000品目以上を商品化。海外でも着々と販路を拡げている。

躍進を続けるレアシュガースウィートが食品展示会へ出展する際には、展示ブースにズイナーズが培養したズイナの木が飾られる。現在は主に希少糖の研究材料や教材として販売・配布されているズイナだが、美しくて花の香りもよいことから、観賞用としてのニーズも高まっているという。

かつて何森教授が偶然発見した微生物の酵素でD-プシコースの生産が可能になり、偶然存在を知ったズイナの木にD-プシコースが含まれていて、ズイナを培養する小蓑ズイナーズが誕生した。それは、ズイナの木を通して過疎地区の高齢者がいきいきと活躍する場が生まれたことを意味し、高齢者と子どもたちがふれあい、子どもたちの意欲を喚起する場も生まれている。同時に、産学官連携による大勢の人の力で希少糖含有シロップが商品化。PRにはズイナの木が用いられるなど、ズイナーズとのコラボレーションの兆しもある。希少糖にまつわるこうした多様な展開とつながりは、香川県で紡がれる壮大な物語といえるだろう。

もちろん、すべてが順調というわけではない。「ズイナーズが育てるズイナの木を、今後どう発展させるか、過疎地活性をどう持続させるかは大きな課題。ありがたいことに、商業的なご提案をいただくことも少なくありませんが、一過性の流行りで終わらせたくないのです。これからは希少糖を香川の文化として定着させ、人の心に残っていけるかどうかが大切。そういう意味で課題は多く、悩みながらの活動です」と、何森教授。しかしその後すぐに「ただ、確実に言えるのは、ズイナーズの毎日は“問題を抱えながらの楽しい毎日”だということです」とも。

日が傾き始めたころ、仕事を終え帰宅したはずのズイナーズの男性メンバーが、「新米ができたから、何森先生に」と、米をもってふらっと研究所の敷地内に現れた。何森教授は「彼はね、パチンコと水戸黄門が好きなんですよ。『パチンコやめた』って言ってたけど、さっき聞いたらまだやめてないって(笑)」と、楽しそうに言って彼を迎えるために席を立つ。「先生は、ここにいるときと大学にいるときとで表情が違うんです。ここでは笑ってらっしゃることが多いですね」。ズイナーズを支える主婦スタッフの1人が、にこにこしながら教えてくれた。

取材・撮影・デザイン・コーティング/アトリエあふろ
ライティング/アトリエあふろ(富成深雪、岡本靖正、佐藤福子)、N2(小野剛志)、川島 剛、永田知子

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