ふるさと名品オブ・ザ・イヤー

エントリーNO.04 株式会社 タネイ

伝統ある「三河木綿」に
新たな息吹を!
地域活性を目指して、魅力ある商品を国内外へアピール

〈ふるさと名品〉

三河木綿を使用した刺し子織バッグ
sasicco (サシコ)

〈問い合わせ先〉

株式会社 タネイ「sasicco」
TEL 0533-76-4181
http://www.mikawa-momen.com

〈会社概要〉株式会社 タネイ
愛知県豊川市御津町西方中屋敷35番地
TEL 0533-76-4181
http://www.mikawa-momen.com
〈事業内容〉柔道衣、空手衣、剣道衣具、刺し子地衣類、武道用品の製造販売、三河木綿を使ったバッグ、作務衣などの製造販売

株式会社 タネイ

種井美文(たねいよしふみ)さん(65)

愛知県豊川市出身。1989年、祖父が興した会社「株式会社 タネイ」3代目代表取締役に就任。刺し子の製織機開発に成功し、道着の発展に大きく貢献した祖父のスピリットも受け継ぎ、就任後は伝統を守りながらも常に新しい可能性を追求する姿勢で「バイオ加工剣道着」など数々のヒット商品を生み出した。「地域活性」から「グローバルな展開」まで、広い視野で「三河木綿の刺し子織」の商品展開を模索している。

「もったいない」から生まれた
自分のためだけのバッグからヒット商品に

瓦屋根に黒く塗られた木造の壁。格子の窓枠にも趣がある。到着したとき感じた「校舎のような雰囲気もあり、懐かしさを感じるけれどもモダンな佇まいで素敵な社屋だな」という印象は、全てに繋がっていた。

最近、女性を中心に人気が広がっているバッグがある。自社のネットショップだけでなく、セレクトショップや百貨店でも取り扱われ販路を広げているそれは「株式会社 タネイ」が製造・販売する三河木綿を使用した刺し子織のバッグ「sasicco」だ。

「株式会社 タネイ」は大正10年創業。三河木綿の生地で柔道着、剣道着、空手着など道着を主につくってきた老舗メーカーで、昔から武道の発展に貢献してきた。ところが「子どもの人口の減少もあり、道着が売れなくなってきたのです」と話すのは3代目代表取締役の種井美文さん。例えば2006年に20万人を超えていた柔道の競技人口は、2017年には約15万5千人にまで減少。それに加え、手に入れやすい価格で販売されるジャージ素材の剣道着が登場したことも売り上げが伸び悩む原因のひとつなのだとか。「何か新しい展開をしなくはという思いはありましたが、親の世代からの借金もありこれ以上の借り入れは無理だと言われていました。ですから、『今ある材料で』『今ある設備で』『今いる人で』できるものを模索しなくてはならなかったのです」。

そこで種井さんが着目したのが、工房で働く職人たちが余り生地でつくっていた「マイバッグ」だ。隅田晶子さん(62)は、16年間工房で働くベテランの一人。バッグ制作が本格化する前は道着の帯を縫う仕事を担っていたのだそう。「たまたま剣道着のほうへとお手伝いに行ったんです。そしたら、ちょうどそのころ夏用の道着のために開発された、薄くて軽い藍染め生地の襟部分がたくさん余っていて。藍染めは反物が変わると色が変わってしまうので捨てるしかないんだと聞いて『藍染めを捨てるの? ちょうだい! もったいない! 』ともらってきて、休み時間に継ぎ合わせて自分のバッグをつくりました。捨てる生地を利用した、エコなエコバッグだから『エコエコバッグ』よね」。隅田さんの「エコエコバッグ」から徐々に広まり、気が付けば職人のほとんどが自らのお手製のバッグを持つようになっていった。自分が使いやすいよう、それぞれに工夫を凝らしたバッグたちを見て種井さんは「これはいけるのではないか」と商品化に踏み切ったのだという。

とはいえ、すんなりといったかといえばそうではない。「試作品をメーカーに持ち込んだところ『ここまで縫うか』って言われて」と笑う種井さん。ほつれたり裂けたりしないことが第一である道着を縫っていた職人たちがつくるバッグは、道着と同じように縫って縫って縫い込まれとにかく頑丈。「それなら縫い重ねる箇所を減らせば、今まで2個しかできなかったバッグが同じ時間で3個できるなと思ったのですけれども、職人たちには道着をつくる、染み込んだなにか、DNAみたいなものがある」ため、かえって効率が落ちてしまったのだという。試行錯誤の末、第一号がうまれたのは2008年、今から10年前のこと。さらに2年後にはsasiccoの商標登録を取得、本格的にブランドをスタートさせた。

日本の伝統工芸「刺し子織」を使用し、流行を取り入れた「懐かしさも感じるけれど、モダンな」デザインのバッグには、道着メーカーがつくるからこその丈夫さにプラスして、職人の女性たちの気づかいやこだわりが詰まっている。バイヤーたちの目に留まるのも当然だったといえよう。「実は、セールスは一度もかけていないんです。展示会に出展することでお客様がつき、お話をいただくかたちで展開してきました」。そうして今やsasiccoのバッグは「株式会社 タネイ」を代表する商品になったのだ。

  • 素材の風合いが感じられる、懐かしくもモダンな社屋。中に入ると、とてもよい木の香りが漂ってくる

  • sasiccoのきっかけとなる「エコエコバッグ」をつくった隅田さん。「この辺の生地もなにかつくれないかなって、この間倉庫から引っ張り出してきたのよ」と製作途中のものや、道着などをつくった余りの生地をたくさん見せてくれた

  • 職人たちの「マイバッグ」。使い勝手はもちろん「こういうかわいいのが好きで」と自前のリボンテープを付けるなど、各々のこだわりとセンスが光っている

地域資源に認定「三河木綿」を活用
働く人たちのやりがいが地域活性へつながる

sasiccoのこだわりは「三河木綿」を使用した「刺し子織」の生地であること。

愛知県三河産(愛知県の東半分の地域)の木綿を使った織物類のことを「三河木綿」と呼ぶ。昔の文献によると日本の綿業は799年、崑崙人(こんろんじん・インド人といわれる)が現在の愛知県西尾市に綿種を持って漂着したのがはじまりとされ、江戸時代には三河地方で綿の栽培と綿織物が盛んにおこなわれるようになった。その後も西洋の技術を取り入れるなど発展を続け、明治時代になった頃には「三河木綿」は全国に知られていたのだそうだ。

地の生地のところどころに太さや色の違う「刺し子糸」を加えて織ることで、刺し子のさまざまな文様を表す「刺し子織」。「株式会社 タネイ」による、木綿の中でも厚手の三河木綿を使用した刺し子織は、凹凸により生地が三次元のようになっていて、保湿性・吸収性に優れているのが特長だ。耐久性や耐火性にも優れており、道着に使用されるほか江戸時代には火消しの衣装にも使われていたという。

歴史も伝統もある「三河木綿」だが、種井さんは「もっと地域に根付いたものにし、さらに活性化しなくては埋もれてしまう」と危機感を感じている。その危機感に常に行動力が伴うのが種井さんだ。「三河木綿」の愛知県地域ブランド登録に尽力し、また2008年には「刺し子織の三河木綿」で地域産業資源活用認定事業者となった。「このあたりは繊維業が盛んでしたが、現在落ち込んでいるのは否めません。タネイは祖父の代から刺し子織もあったことですし、それも含めて魅力ある商品を出すことで、地域を発展させていきたい」と意欲を語ってくれた。

では、「魅力ある商品」を出すためには何が大切なのか。種井さんは「つくり手がやりがいを持って仕事をすることだと思います」ときっぱり言い切った。

休みがとりやすいなど働きやすさを重視することはもちろん、つくる過程において「働いているのが楽しい、充実した時間だという気持ちを持ってもらえる工房でありたい」と種井さんは考えている。「現在バッグのデザイナーはいないんです。彼女たちがアイデアを出し合い『自分たちで良いものをつくっていこう』という姿勢で一生懸命やっていてくれているんですよね」。太田伸与さん(43)は「私がつくったマイバッグを見て、これいいね、って商品化されたこともありました」という。どのように縫うかを相談しあったり、フォローしあったり。「つくりたいものをつくれるのが本当に楽しい」と隅田さん。

太田さんは「スーパーの買い物中とか、子どもの学校の懇親会で、結構sasiccoのバッグを持ってる人を見かけることがあるんです。話しかけたいくらい嬉しくて。恥ずかしいから話しかけられないんですけど」と笑う。隅田さんも「30代くらいの女性が、あれは絶対に私が縫ったとわかるバッグを持ち歩いているのを見かけたんです。遠くから見てもわかるくらい本当に使い込んでくれていて」と感激をあらわにした。使い手の反応を直に感じることについては、1階に購入もできるショールームができたことも大いに役立っているようだ。「バッグを買いに来てくれたお客さんが、帰りに笑顔なのを見るとよかったなってやる気が出ます」(太田さん)。

もと剣道部で、タネイの剣道着に親しみがあったご主人からsasiccoのバッグを紹介されたことがタネイで働くきっかけのひとつだという太田さん。やりがいを感じながら働く姿にご主人も「好きなことが仕事になってよかったね」と喜んでくれているのだとか。「街中のデパートに遊びに行ったときなど、sasiccoが販売されているのを子どものほうが早く見つけて、嬉しそうに教えてくれるんです」と、子どもにとっても自慢のお母さんであるようだ。「もっともっと技術的にもできるようになりたいことがあります。使いやすくて、持っていて嬉しいようなバッグをつくりたいという目標もあるので、ずっと仕事は続けたいです」と笑顔で語ってくれた。

  • 工房を支える職人たち。幅広い年齢層の女性が世代間を超えともに働き、自然な流れで技術の継承もおこなわれているのだそう

  • 工房内は、木材のもつ素材感と大きな窓で温かみのある空間で、家庭用のものよりも重たいミシンの音が耳に心地よい。

  • 「入った頃は『失敗したらどうしよう』と緊張することもありましたが、すぐにこの仕事に夢中になって気づけば8年が経っていました」と太田さん

  • 時折、職人同士で縫い方や裁断の相談をしながら作業は進む。誰もが一人でバッグを完成させることができるが、複数個の1工程をまとめて作業しながら回していき、グループで完成させることが多いのだそう

世界にも目を向ける。
地域をアピールしながら、新しい展開を

薄くて軽い特殊刺し子織生地を開発するなど、技術革新にも力を入れてきた種井さん。薄い刺し子織生地がsasiccoのバッグへと大きく発展したように、刺し子織にはまだまだ可能性があると常に探求している。先日も、とある看護師さんに生地を見てもらい、介護や医療の現場でも活用できそうだという話になったのだとか。「新たな展開をしてまたそこでも名が知れ渡れば、『三河』の地域をさらにアピールできます。地域をしっかりとした形で発展させていきたいです」

地域の土台ができればこそ、海外でもしっかりアピールしていけると考える。「名古屋で行われた世界ユネスコ会議のコングレスバッグ(資料一式を入れ、関係者に配布されるバッグ)に使用されたほかにも、伊勢志摩サミットのプレスバッグ(主に海外のプレスに向け、国や地域の魅力を紹介する冊子などを配布するためのバッグ)にも採用されました。またパリの老舗百貨店で販売された実績もあります。グローバルな展開はもちろん目指していくのですが、もうひとつ、インバウンドが大切だと考えているんです」。国際空港など、海外からの観光客が集まる場所での販売を通じて「三河木綿」を、さらには「三河」の地域をアピールしていきたいと語る種井さん。

かつて道着として日本中に広まっていた「三河木綿」が、今度は上質な織物としてわたしたちの日常生活になくてはならないものとなり、さらには世界に通じる単語のひとつになるまできっとそう遠くない。

  • 1階にはショールームがあり、購入もできる。地元に住む人が京都など旅行先でsasiccoを購入し、タグを見て「こんな近くでこんな素敵なバッグをつくっているなんて!」と訪れることもあるのだとか

  • 道着の工房は1階にある。日本のトップメーカーである「株式会社 タネイ」の道着は日本全国の武道用品店で取り扱われ、現在も武道の発展と進展を支えている

企画・取材・執筆・撮影・デザイン・コーディング/アトリエあふろ

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