主婦やシニアの方の活躍創出部門

エントリーNO.09 矢沢加工所企業組合

世代は違っても「仲間」
農村で働く主婦の手づくりのおいしさを食卓へ

〈商品の入手・問い合わせ先〉

矢沢加工所企業組合
TEL&FAX 0263-54-7830
http://www.shiojiri.or.jp/member/data/0263547830/1.html

〈会社概要〉矢沢加工所企業組合
長野県塩尻市下西条342
TEL 0263-54-7830
〈事業内容〉農産加工業

矢沢加工所企業組合

理事長 塩原輝子さん(73)

長野県岡谷市出身。兼業農家に嫁いで塩尻市に移り住む。1985年、農家に嫁いだ女性たちの有志で市場の規格に合わない余剰野菜の販売をスタート。2004年、矢沢加工所企業組合を設立。主婦10名で無添加、天然素材100%にこだわり、りんご、ぶどうをはじめとする信州産フルーツを使ったジュースやジャム、味噌などを手づくりしている。

「自分の通帳が欲しかったのよ」
還暦を過ぎた主婦たちの挑戦

事務所のある2階への外階段をのぼると、ほんわりと上品な香りが漂ってきた。聞けば1階の加工室で、りんごジュースの加熱殺菌作業をしているところだという。「出来立てほやほやですよ」と差し出されたりんごジュースは、湯気が立っている。口に含むと心底ほっとするやさしい味と温かさ。赤ワイン用ぶどうのコンコード、白ワイン用ぶどうのナイアガラを使ったジュースも濃厚で香り高く、それでいてすっきりとした甘さがさらりと体にしみ込む。

長野県塩尻市にある矢沢加工所は、地元の農産物を使ったジュースやジャム、味噌などをつくる企業組合だ。主婦が手づくりする無添加、100%天然素材のおいしさが評判となり、視察や取材のオファーは後を絶たず、ジュースは東京の老舗高級フルーツ店で販売していたこともある。「最初はトラックで野菜を売っていたんですよ」と、理事長の塩原輝子さん。兼業農家に嫁いだ塩原さんが、県が開催する農村婦人学校などの研修の場に参加し、野菜のつくり方や加工技術を学んだのは40代のころ。当時の農家に嫁いだ女性は、農業という家業でしっかり労働していたにもかかわらず、自分のための現金収入などなく、自分名義の通帳もないのがあたりまえだった。

「それで、一緒に勉強した仲間たちと、女性でも何かやりたいねという話になったんです。農家の主婦だって自分の通帳を持ちましょうよ、って」。その根底には、塩原さんたち農家の女性の地位向上や、自立という志があった。

1985年、塩原さんたちは市場の規格に合わない余剰野菜を軽トラックに積み込み、近所の団地で売り始めた。1995年になると当時まだ数少なかった直売所を設置。加工品への思いも日に日に募り、2004年には60代、70代、80代の女性7名の有志によって、矢沢加工所企業組合が設立されることとなる。

  • 塩尻市内の、のどかな山のふもとに立つ社屋。澄んだ空気が心地よい爽やかな場所だ

  • 理事長 塩原輝子さん。起業のきっかけは、農家に嫁いだ女性の地位向上だった

  • 副理事長 佐倉恵美子さん。野菜販売のころから塩原さんとともに活動を支えた

子どもが成長していたから
仕事と家庭を両立できた

ジュースにするりんごは、ヘタや小さなキズをそのままにして加工する事業者が多い中、矢沢加工所では手作業で全て丁寧に取り除く。ぶどうは機械を使わずに、手でひとつひとつ実をもぐ。だからとびきりおいしくて、無添加なのに日持ちがよい。ファンは多いものの何しろ手がかかるので生産が追い付かない。すぐに売り切れてしまうインターネット販売は行わず、直接販売は電話やFAX注文のみ。飲食店やホテルなどの得意先を中心に、販売は好調を維持している。

だが、ここまで全てが順風満帆だったわけではない。企業組合設立のタイミングでは、本格的な事業化に躊躇(ちゅうちょ)して離れていく仲間もいた。銀行から資金を借り入れようにも担保となる自分名義の資産などなく、世間の厳しさを実感した。それでも、志を理解してくれる市役所や農協の協力を得て、納得のいくものをつくるための起業を成し遂げた。「そのお礼の意味も込めて」と、矢沢加工所は塩尻市社会福祉協議会に毎年寄付を続けている。

外部の協力だけでなく、もちろん、家族の理解があったことも大きい。「みんな還暦を過ぎていたから子どもは手が離れていたし、義父母もいいことだからやりなさい、と協力的でした」

企業組合設立から10余年が経ち、最高齢の小島美代子さんは89歳になった。「私たちは若いときから、地域の友達と一緒に勉強したり、作物に触って作業するのが普通なの。だから毎日仕事に出てくるのも普通。全然苦にならんねえ」。確かに、バイクで通勤し、20kgの果物をひょいと持ち上げる小島さんの姿からは、89歳という年齢など想像もつかない。とはいえ「創業メンバーの平均年齢はもう80歳近いですから、引き際や後継者のことは考えます」と塩原さんは話す。

  • 左からナイアガラ、りんご、コンコードのジュース。高級感のある味わいは感動もの

  • 味噌は自家製米麹でつくる。塩尻市長が育てた大豆を使った「市長の味噌」も人気

  • 最高齢の小島美代子さんは89歳。とても元気で年齢を感じさせない働きぶり

子育て経験があるからこその
“後輩”への深い理解

昼休み、加工室に隣接する休憩所にお邪魔した。親子ほど年の離れた女性たちが手づくりの総菜を持ち寄り、楽しげにおしゃべりしながら昼食をとっていた。現在、パートを含む10名のスタッフは全員が女性。塩原さんたちが行う料理教室などで出会い、共感してくれる人を迎え入れてきたら自然に今の顔ぶれになった。

パート勤続7年目の小笠原美幸さんと、6年目の山田志保さんは、小学生~中学生の3人の子どもを持つ40代の主婦である。2人は現在、加工作業の中枢をなす人材だ。働き始めたころは一番下の子どもが幼稚園児で14時までの勤務だったが、子どもが就学した今は定時まで働き、学校行事のある日は休みをとる。「子育てと両立できる職場なので続けることができました」と、小笠原さんと山田さん。料理が好きで、ものづくりの職に就きたいと考えていた2人は、毎日生き生きと仕事をこなす。

時代は変わり、農村で働く主婦のあり方も塩原さんたちが野菜を売り始めたころとは大きく変わってきた。しかし、「仕事と子育ての両立」は今も昔も変わらぬ主婦の課題。矢沢加工所には、子育て世代のための特別な出勤形態や制度はない。それぞれの家庭の事情、もっと言えばその日の事情に柔軟に対応しているだけである。

家庭を持つ主婦の先輩と後輩同士、ルールなどなくても、理解も応援もし合える素地がある。「私たちは、子どもが小さいときは今の仕事を始めていなくて、子育てに専念していました。だからこそ、子どものいる方には子どもを優先してほしいと思うんです」という塩原さんの言葉が、次世代を担う主婦たちをおおらかに受け止める。

取材・撮影・デザイン・コーティング/アトリエあふろ
ライティング/アトリエあふろ(富成深雪、岡本靖正、佐藤福子)、N2(小野剛志)、川島 剛、永田知子

  • 加工室では親子ほど年代の違う主婦スタッフたちが、和気あいあいと働いている

  • 水も空気もきれいな、恵まれた環境。塩尻市内からは雄大な穂高連峰を望む

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